数千人のCEOが認めた現実:AIは雇用・生産性に影響なし ― 40年前の「生産性パラドックス」が復活
6,000人の経営幹部調査で90%が「過去3年間、AIは雇用にも生産性にも影響なし」と回答。Spotify CEOの発言と真逆の結果に、1987年のソローのパラドックスが復活。2,500億ドルのAI投資は生産性革命をもたらしていない。
数千人のCEOが認めた現実:AIは雇用・生産性に影響なし
ソローのパラドックス、40年ぶりに復活
1987年、ノーベル経済学賞受賞者ロバート・ソローは、IT革命の意外な結果について警告を発した。「コンピューター時代はあらゆる場所で見られるが、生産性統計には現れない」。トランジスタ、マイクロプロセッサ、集積回路の登場にもかかわらず、生産性の伸びは1948-1973年の2.9%から、1973年以降は1.1%に低下した。
2026年2月、歴史は繰り返している。
6,000人の経営幹部が証言した現実
National Bureau of Economic Researchが今月発表した調査によれば、米国、英国、ドイツ、オーストラリアの6,000人のCEO、CFO、その他経営幹部のうち、**約90%が「過去3年間、AIは雇用にも生産性にも影響を与えていない」**と回答した。
主な発見:
- AIの実利用時間: 週平均わずか1.5時間
- AI未使用企業: 全体の25%
- 使用企業: 約3分の2が「使っている」と回答したが、実態は限定的
興味深いのは、期待値と現実の乖離だ。同じ経営幹部は、今後3年間でAIが生産性を1.4%向上させると予測している。しかし過去3年間の実績はゼロである。
Spotify CEOとの矛盾
この調査結果は、2月14日にSpotifyのCEO Gustav Söderströmが発表した内容と真っ向から対立する。
Spotify CEO(2月14日): 「最高の開発者は12月以降、一行もコードを書いていない。彼らはコードを生成し、監督しているだけだ。」
6,000人のCEO(2月17日): 「過去3年間、AIは雇用にも生産性にも影響を与えていない。」
どちらが真実なのか?答えは「どちらも」である可能性が高い。SpotifyのようなAI先進企業と、大多数の企業では、AI導入の成熟度に大きな差がある。
AIバブルへの警鐘
Apollo chief economist Torsten Slokは、ソローの言葉を引用してこう述べた:
「AIはあらゆる場所で見られるが、マクロ経済データには現れない。雇用統計にも、生産性統計にも、インフレ統計にも、AIの痕跡はない。」
さらに深刻なのは、Magnificent Seven(巨大テック企業7社)以外では、AIが利益率や収益予測に影響を与えていないという事実だ。
2024年、企業のAI投資は2,500億ドルを超えた。しかし、その投資が生産性向上につながっているという証拠は、ほとんど見つかっていない。
信頼の崩壊
ManpowerGroupの2026 Global Talent Barometerによれば、19カ国14,000人の労働者を対象とした調査で:
- AI利用率: 2025年に13%増加
- AI信頼度: 同期間に18%低下
AIを使う人は増えたが、AIを信じる人は減っている。これは、AIツールが約束した生産性向上を実現できていないことを示唆している。
J-Curve仮説:希望はあるのか?
すべてが暗いわけではない。1970-80年代のIT革命も、当初は生産性を低下させたが、1990年代には1.5%の生産性成長を実現した。
Stanford UniversityのErik Brynjolfsson教授は、Financial Times紙で「トレンドは既に反転しつつある」と主張している。彼の分析によれば:
- 2025年の米国生産性: 2.7%増加
- Q4 GDP成長率: 3.7%(雇用増加は18.1万人のみ)
これは「AI投資フェーズから収穫フェーズへの移行」を示している可能性がある。Slokはこの現象を「J-Curve」と呼んでいる:初期の停滞後、指数関数的な成長が続くというパターンだ。
コーディングエージェントへの影響
Claude Code、Cursor、GitHub Copilotなどのコーディングエージェントは、2025-26年に急速に普及した。しかし、この調査結果は、ツールの普及と生産性向上は別物であることを示している。
重要な違いは以下の通り:
1980年代のIT革命:
- イノベーターは独占価格決定力を持っていた
- 競合製品が登場するまで時間がかかった
2026年のAI革命:
- 大規模言語モデル間の「激しい競争」により価格が低下
- ツールは容易に入手可能
Slokが指摘するように、「マクロ経済的観点から言えば、価値創造は製品そのものではなく、generative AIがさまざまな経済セクターでどのように使用され、実装されるかにかかっている。」
結論:ツールではなく、実装が鍵
AIコーディングエージェントは強力だ。Claude Sonnet 4.6は2月17日にリリースされ、Opus 4.5に匹敵する性能を提供している。しかし、ツールの性能と、企業全体の生産性向上は別物である。
6,000人のCEOの証言は明確だ:現時点では、大多数の企業にとって、AIは約束された生産性革命をもたらしていない。
しかし、IT革命の歴史が示すように、生産性の「J-Curve」が実現する可能性は残されている。問題は、企業がAIツールを「使う」だけでなく、組織のワークフローに深く統合できるかにかかっている。
SpotifyのCEOが語った「最高の開発者がコードを書いていない」という未来は、まだ一部の先進企業にしか訪れていない。残りの90%の企業にその未来が訪れるかどうかは、今後数年の実装次第である。
参考文献:
- Fortune: “Thousands of CEOs just admitted AI had no impact on employment or productivity” (2026-02-17)
- NBER: Study on CEO AI Usage (2026-02)
- Apollo Global Management: “AI is everywhere except in the incoming macroeconomic data”
- ManpowerGroup: 2026 Global Talent Barometer
- Financial Times: Erik Brynjolfsson on AI productivity
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